【新・仕事の周辺】原口泉(志學館大学教授) ドラマを見て夢を抱いてもらえるたら時代考証に携わる者として本望

原口泉・志學館大教授 原口泉・志學館大教授

 NHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」の時代考証を担当させていただいている。初めて時代考証を担当した1990年の大河「翔ぶが如く」の放送から28年。この間、1993年「琉球の風」、2008年「篤姫」の時代考証を担当、15年度下期の朝の連続テレビ小説「あさが来た」では、薩摩出身の実業家・五代友厚が準主役で登場したため、朝ドラでは異例の時代考証を担当させていただいた。

 では、時代考証とはどのようなことをするのか。脚本が史実に合っているのかどうかをチェックすることはもちろんだが、それだけではない。当時の人はどんな食べ物を食べていたのか、当時どんな生き物がいたのか、冠婚葬祭はどのように行われていたのかなど、映像で再現するために、生活文化の考証もする。また、小道具で使用する書状や、セットで使用する美術品など、事細かなところまで考証をする。中でも一番重要なことは、史実と脚本家の伝えたい思いをかけ合わせられるよう、お手伝いすることである。

 28年前の「翔ぶが如く」では、史実と明らかに違うことはほとんどなかった。司馬遼太郎氏が膨大な文献のリサーチをもとに原作を書かれており、原作にそった形で脚本がつくられていたからだ。近年では、脚本は原作とは別の作品となっている。10年前の「篤姫」では、原作の宮尾登美子氏は、「ドラマではご自由になさってください」とおっしゃっていた。実際、原作では江戸からスタートするが、篤姫の幼少期を描くためにドラマでは薩摩からスタートした。今回の中園ミホ先生脚本の「西郷どん」では、史実をベースとしながら若い方が見ても感情移入しやすいよう、現代の目線で描かれている。そのため、史実と明らかに異なることが多々ある。

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 例えば、西郷隆盛の3番目の妻・糸は、ドラマでは同じ町内に住む幼なじみとして描かれているが、史実では糸が16歳年下であり、小さい時に2人が出会うことはありえない。しかし、後に賊将の妻となり西郷家を支える糸と、町内の子供たちのリーダーとして活躍したり、腕に刀傷を負い挫折したりする幼少時代の西郷小吉を会わせておきたかったため、2人を幼なじみとして描いた。

 大河ドラマは、あくまで「歴史ドラマ」であり「歴史ドキュメント」ではない。私は、ドラマを通して多くの子供たちに夢や希望を与えられるようなドラマづくりを目指している。漫画「ブラック・ジャック」に影響を受け、お医者さんを目指した子供たちがたくさんいる。漫画やドラマの「海猿」を見て海上保安官に憧れた子、アニメ「巨人の星」や「キャプテン翼」を見てスポーツをはじめた子もたくさんいるだろう。

 同じようにドラマ「西郷どん」を見て、西郷どんのような心の大きな人になりたい、政治家を目指そう、島唄を習ってみたい、囲碁を打てるようになりたいなどと、目標や夢を抱いていただけたら、時代考証に携わる者として本望である。

                  

【プロフィル】原口泉(はらぐち・いずみ) 昭和22年、鹿児島県生まれ。東京大学文学部卒。鹿児島大学法文学部教授を経て、志學館大学人間関係学部教授、鹿児島県立図書館館長、鹿児島大学名誉教授。専門は日本近世史・近代史、薩摩藩の歴史。平成2年のNHK大河ドラマ「翔ぶが如く」など歴史ドラマの時代考証を担当。主な著書に「西郷どんとよばれた男」(NHK出版)、「西郷家の人びと」(KADOKAWA)。

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